上部消化管疾患
胃疾患について
胃の病気にはどのようなものがあるか
良性の胃の疾患として、胃ポリープ、胃潰瘍、慢性胃炎などがあります。胃潰瘍は胃 (みぞおち) の痛み、慢性胃炎では胃の不快感や胸やけなどが出現しますが、内科的治療のみで改善することがほとんどです。一方、外科で手術治療が必要となる胃の疾患としては、悪性である胃がんや腫瘍性の病気(GISTなど)が挙げられます。これらも早い段階では自覚症状がほとんどなく、あっても上記の胃潰瘍や慢性胃炎の場合と区別することは困難とされています。ですので、早期発見のために、定期健診をうけていただくことが大切です。
胃がんはどうやって体の中を広がり、むしばむのか
胃がんは胃の内側にある粘膜に発生した癌細胞の集まりです。その発生にはピロリ菌、塩辛い食物、たばこ(喫煙)が関連することが判明しています。初めは粘膜だけに発生した癌細胞も、その数が増えると集合体としての大きさが増し、胃の壁の外側へと進んでしまうだけでなく、リンパの流れや血液の流れに乗ることで、リンパ節や肝臓・肺などの離れた臓器に転移し、そこでも大きくなって体をむしばもうとします。このように進行する胃がんではその段階のどこで発見されたかによって患者様の病期(進行度)が決まります。
胃がんに立ち向かう方法にはどんな選択肢があるか
胃がんと診断されると、病期(進行度)に合わせ治療方針が組み立てられ、治癒(治った状態)を目指せるかどうかを判断します。治癒(治った状態)を目指せるなら、①内科の胃カメラ処置で病変だけを切除する、②外科手術として胃とリンパ節を切除する、③外科手術と抗がん剤治療を組み合わせて治療する、といった3パターンから治療法を選択することになります。体へのダメージ(侵襲)は①<②<③の順に大きくなることが想定されます。
胃がんに対する外科手術
(A)病変のある胃を一部または全部切除摘出し、(B)周囲の関連するリンパ節も切除摘出します。その後、(C)食べ物の通り道を再建します。胃がんに対する手術はこの(A)(B)(C)の3要素で成り立っており、胃がんが胃の入り口側に近いか、出口側に近いか、といった場所や広がりにより切除する範囲を決定します。全部切除は胃全摘、一部を残す切除は幽門側胃切除と噴門側胃切除などと呼び、昨今は、がんの治癒に影響がない範囲で、できるだけ一部を残す切除術式を選択する方針としています。
私の体力で手術のダメージにたえられるのか
外科手術を受けなさいと聞かされると、自分の体力で手術のダメージに耐えられるのだろうか?と不安に思われる方がほとんどだと思います。特に高齢者の胃がん患者様が増加していると報告される近年、当院でも75歳以上となった方々でこの病気と診断されるケースがかなり増えています。この年代の方々はすでに併存症(胃がん以外の別の疾患)で通院や定期内服をされている可能性が高いため、予定された外科手術の前には、必ず、循環(心臓血管機能)、呼吸(肺機能)、肝・腎機能、耐糖能異常、貧血の程度など数多くの項目から、「リスクとなる併存症」を把握し、患者様の体力が手術に耐えうるものであるかどうかについて判断して手術をプランするようにしています。
さらに当院では、次に記すような低侵襲(手術によるダメージの少ない)治療を行うことで、より高齢でよりリスクの多い患者様にも比較的安心して手術治療を乗り越えていただけるように、努めております。
胃カメラじゃない?腹腔鏡手術が低侵襲ってどういうことか
胃カメラも腹腔鏡(カメラ)も内視鏡と呼ばれる細い管状のカメラという点では共通していますが、観察する目的が異なります。胃カメラは口から消化管(食道・胃・腸)の中を観察しますが、腹腔鏡(カメラ)は図に示すように腹腔(お腹の容器としての空間)の中を観察します。腹腔鏡手術では二酸化炭素ガスを用いて、野球のドーム球場のように膨らませた腹腔を専用のカメラを使って体外モニターに映し出しながら、5-12mm程度の孔から挿入した手術器具(「孫の手」のようなもの)だけで腹腔内の臓器を切ったり、縫ったりする操作を行います。最も分かり易い特長のひとつは「お腹の”表面”の傷が小さくてすむ」ことが挙げられます。また腹腔鏡(カメラ)は目標の胃のすぐ近くまで接近しますので、切るべきラインが正確に把握しやすく、結果、お腹の”中”の傷によるダメージも抑制することができることにもつながります。
当院では、これらの特長を最も引き出せる方法のひとつである、3D内視鏡システムを採用しており、これを用いることによって腹腔内の構造を術中にリアルタイムで立体視的にとらえることが出来る為、精度の高い治療が行える備えがあります。
手術後の食生活にはコツが必要
胃の手術によって胃が小さくなる(あるいは胃がなくなる)ため、食事を溜められなくなりますので一度にたくさんの食事ができません。手術後の食事は、初めは一回に食べる量を少なくして、ゆっくりよく噛んで食べるようにしましょう。食事を貯留して消化するという働き低下した代わりに、口の中でよく噛むという動作で補う必要があります。しかし、腸閉塞を起こしやすい方は消化が悪く噛み切らないで塊で食べてしまうような食材や水分をすって膨張しそうな食材(例えば昆布やイカ、こんにゃくなど)は避けたほうが無難です。食事、栄養については、胃切除術後に管理栄養士からも詳しく説明します。栄養補助食品や栄養剤を追加するご相談に乗れる場合もあります。
食道疾患について
食道癌
「国立がん研究センターがん情報サービス」より転載
食道は、のどと胃の間をつなぐ管状の臓器です。縦隔といわれる体の中心部にあり、気管、心臓、大動脈や肺などの臓器や脊椎に囲まれています。
食道の粘膜から発生したがんは、大きくなるととともに深層(外側)へと広がり、周囲の臓器(気管や大動脈など)にまで直接広がっていきます(浸潤)。また、食道の壁にあるリンパ管や血管にがんが侵入し、リンパ液や血液の流れに乗って、食道外にあるリンパ節や肺、肝臓などの他の臓器へとがんが移っていきます(転移)。
Ⅰ.病期(ステージ)
0期〜Ⅳ期まであり、次の3つの因子の組み合わせにより決定します
①がんが食道のどの深さまで広がっているか ②リンパ節転移の程度 ③別の臓器への転移の有無(遠隔転移)
食道がんの病期(ステージ)分類
Ⅱ.食道癌の治療
- 内視鏡的切除
- 手術
- 放射線治療
- 薬物療法(化学療法)
それぞれの治療法の特長を生かしながら、単独または組み合わせた治療を行います。
①0期の治療
粘膜にとどまる状態ですので、食道を温存できる内視鏡的切除術が標準治療です。
②Ⅰ期の治療
手術が標準治療とされます。状況により薬物療法(化学療法)を術前に組み合わせる場合もあります。また、全身状態により手術が困難な場合には、放射線療法を選択します。
③Ⅱ期・Ⅲ期の治療(進行癌)
まず薬物療法(化学療法)を術前に行って手術をする方法が標準治療とされています。全身状態により手術が困難な場合には、放射線療法を選択します。
④Ⅳ期の治療(切除不能癌)
Ⅳa期では、化学放射線療法が標準治療とされています。
Ⅳb期では、化学療法が標準治療とされています。
食道癌の手術
がんを含めた食道と胃の一部を切除し、同時にリンパ節を含む周囲の組織も切除し、胃や腸を使って食物の新しい通路をつくる手術(再建術)を行います。このため、通常の手術では、頚部と胸部と腹部を開く手術が必要です。
当院では、手術侵襲軽減のため、胸を開かない縦隔鏡と腹腔鏡を用いた非開胸縦隔鏡下手術を積極的に取り入れています。
食道癌の薬物療法(化学療法)
がんを小さくする効果のある細胞障害性抗がん剤という種類の薬を、複数組み合わせて用います。 特に手術と組み合わせる場合には、術前に薬物治療を行い、がんを小さくしてから切除を行います。当院では、Ⅱ期・Ⅲ期の食道癌術前にドセタキセル+シスプラチン+5-FU療法(DCF療法)を2~4回行うことを基本方針としています。